今夜は湯豆腐かおでんがよろしいです
五十嵐義知句集『七十二候』の二句
西原天気
「アットホームな雰囲気のレストラン」とかいった文言を聞くたびに、「何を言ってるんだ?」と思います。
家庭的がいいなら、家で食事すればいいんじゃあないの、と。
こんなことを言う私は、家で食べるごはんがだんぜん好きなのですよ。
だから、
湯豆腐の欠けたる角をすくひけり 五十嵐義知
という句を読んでも、どこかの湯豆腐屋だとは思わない。家で食べる湯豆腐です。
うまく掬えずに、角が欠けて、その小さく欠けた角が湯の中で煮えている。その欠片も掬って食べようという句。
あのね、食事って、気持ちのいい人と食べれば、なんでも美味しいものですよね。「気持ちのいい人」というのは、例えば、気心の知れた人、いっしょにいて楽しい人、それからまた、湯豆腐の欠片をきちんと掬うような人です。
掲句は五十嵐義知第一句集『七十二候』より。集中、こんな句もあります。
かたよりのなく選びたるおでんかな 同
私などはコンニャクが好きなので、どうしてもコンニャクを連続で選んでしまいます。それをやると、「鍋内の具バランス」が崩れてしまう。
バランスよく選ぶ人はエラい。こういう人もやはり「気持ちのいい人」といえるでしょう。
この句もおでん屋や飲み屋とは思わない。家で食べるおでんです。上記の理由(私の家ごはん好き)だけでなく、 外食だと、具のバランスが崩れるという読みが成り立たなくなる。「かたよりのなく」は、栄養バランスかい? それとも自身のスタイルの問題かい? ということになってしまうので、外食説は却下です。
●
行儀の良い人、人のことを考えられる人。『七十二候』の作中行為者(おそらく作者・五十嵐義知とニアリーイコール)の人物像として、そんな美徳が浮かび上がってきます。
良い人が、良いまなざしで、そこにいる。そんな句集です。
こう言うと、べた褒めすぎるので、すこし言えば、ここに、刺激や飛躍、チャレンジングな姿勢はあまりありません。手堅いけれど、読む人によっては退屈と感じるでしょう(そういう句集はとても多い)。しかしながら、それは作者それぞれの持ち味です。
話を戻しましょう。食事というのは、何を食べるかじゃなくて、誰とどのように食べるかが問題。気持ちのいい人と食べれば、なんでも美味しい、という話でした(ほんとに戻ったのか?)。
集中より、ほか、気ままに何句か。
物陰にかくれし春の氷かな
摘みとりし色の深さや草の餅
明急ぐひかりの中の月あかり
廻りてもとまりてもよき独楽の色
≫web shop 邑書林 五十嵐義知句集『七十二候』
五十嵐義知句集『七十二候』の二句
西原天気
「アットホームな雰囲気のレストラン」とかいった文言を聞くたびに、「何を言ってるんだ?」と思います。
家庭的がいいなら、家で食事すればいいんじゃあないの、と。
こんなことを言う私は、家で食べるごはんがだんぜん好きなのですよ。
だから、
湯豆腐の欠けたる角をすくひけり 五十嵐義知
という句を読んでも、どこかの湯豆腐屋だとは思わない。家で食べる湯豆腐です。
うまく掬えずに、角が欠けて、その小さく欠けた角が湯の中で煮えている。その欠片も掬って食べようという句。
あのね、食事って、気持ちのいい人と食べれば、なんでも美味しいものですよね。「気持ちのいい人」というのは、例えば、気心の知れた人、いっしょにいて楽しい人、それからまた、湯豆腐の欠片をきちんと掬うような人です。
掲句は五十嵐義知第一句集『七十二候』より。集中、こんな句もあります。
かたよりのなく選びたるおでんかな 同
私などはコンニャクが好きなので、どうしてもコンニャクを連続で選んでしまいます。それをやると、「鍋内の具バランス」が崩れてしまう。
バランスよく選ぶ人はエラい。こういう人もやはり「気持ちのいい人」といえるでしょう。
この句もおでん屋や飲み屋とは思わない。家で食べるおでんです。上記の理由(私の家ごはん好き)だけでなく、 外食だと、具のバランスが崩れるという読みが成り立たなくなる。「かたよりのなく」は、栄養バランスかい? それとも自身のスタイルの問題かい? ということになってしまうので、外食説は却下です。
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行儀の良い人、人のことを考えられる人。『七十二候』の作中行為者(おそらく作者・五十嵐義知とニアリーイコール)の人物像として、そんな美徳が浮かび上がってきます。
良い人が、良いまなざしで、そこにいる。そんな句集です。
こう言うと、べた褒めすぎるので、すこし言えば、ここに、刺激や飛躍、チャレンジングな姿勢はあまりありません。手堅いけれど、読む人によっては退屈と感じるでしょう(そういう句集はとても多い)。しかしながら、それは作者それぞれの持ち味です。
話を戻しましょう。食事というのは、何を食べるかじゃなくて、誰とどのように食べるかが問題。気持ちのいい人と食べれば、なんでも美味しい、という話でした(ほんとに戻ったのか?)。
集中より、ほか、気ままに何句か。
物陰にかくれし春の氷かな
摘みとりし色の深さや草の餅
明急ぐひかりの中の月あかり
廻りてもとまりてもよき独楽の色
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