後記 ● 上田信治
今号の特集は「曾根毅句集『花修』を読む」。「三木基史が勝手にプロデュース」というのは、このつぶやきのような背景があったからです。
https://mobile.twitter.com/elvin_miki/status/618364716407091200
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この句集『花修』は、とても作者のことが気になる句集です。
句中に発話者、あるいは視点として「私」が書き込まれることは、ほとんどなく、むしろ禁欲的といっていいのですが。
一つには、この句集が執筆時期によって章分けされていて、さらにある日から、あの放射能による汚染が重要なモチーフとしてあらわれること。
もう一つには、これは「私」が登場しないことともつながっているのですが、句群のモチーフが、感覚、感情といった身体ベースのものではなく、抽象的でありながらどこまでも揺るぎない、ひょっとしたら「思想」とでも言うべき領域にあるということ。
その二つのことから、この句集は、ある人のこの十年の精神誌であるかのように読めてしまう。もちろん、具体的にああ思ったこう考えたが書かれているわけではありません。ただここには、この作者が俳句の「歯」でがちっと嚙んでほんとうに歯ごたえのあったものだけが、書かれている。
だから、その人が、俳句を通して嚙んだ世界の歯ごたえが、読み手の歯茎へ届こうとする。すばらしいシリアスさです。
立ち上がるときの悲しき巨人かな
永き日のイエスが通る坂の町
から、
悪霊と皿に残りし菊の花
玉葱や出棺のごと輝いて
を経て、さらに
薄明とセシウムを負い露草よ
山鳩として濡れている放射能
と同時に、
初夏の一人にひとつ生卵
十方に無私の鰯を供えけり
であり、そして、
馬の目が濡れて灯りの向こうから
闇に鳩鳴けば静かに火を焚かん
なのです。
(自分もぜひ感想を言いたい句集だったので、こっそりと書きました)
●
俳句作品は、馬場古戸暢さん(「自由律俳句を読む」100回おつかれさまでした!)と、竹岡一郎さんの30句。
今井聖さんの「なんだこりゃ」もあって(爽波と素十の軽重を問う!)、今号も読み応えありすぎです。
どうぞゆっくりとお楽しみ下さい。
●
それではまた、次の日曜日にお会いしましょう。
no.430/2015-7-19 profile
■馬場古戸暢 ばば・ことのぶ
■竹岡一郎 たけおか・いちろう 昭和38年8月生まれ。「鷹」月光集同人。句集『蜂の巣マシンガン』(平成23年、ふらんす堂)『ふるさとのはつこひ』(平成27年、ふらんす堂)
■三木基史 みき・もとし
1974年生まれ。兵庫県宝塚市在住。「樫」所属。森田智子に師事。現代俳句協会会員。第26回現代俳句新人賞。 共著『関西俳句なう』
■五島高資 ごとう・たかとし
昭和43年、長崎生まれ。
■森澤 程 もりさわ・てい
1950年、長野県生。現在、奈良県橿原市在住。「花曜」、「 光芒」、「風来」を経る。句集『インディゴ・ブルー』。
■宮本佳世乃 みやもと・かよの
1974年生まれ。「炎環」「豆の木」「オルガン」所属。2010年合同句集『きざし』。2012年12月、句集『鳥飛ぶ仕組み』。
■瀬越悠矢 せごし・ゆうや
1988年兵庫県生まれ。関西俳句会「ふらここ」所属。
■堺谷真人 さかいたに・まさと
1963年、大阪生まれ。「豈」「一粒」同人。現代俳句協会会員。
■小野裕三 おの・ゆうぞう
1968 年、大分県生まれ。神奈川県在住。「海程」所属、「豆の木」同人。現代俳句協会評論賞、現代俳句協会新人賞佳作、新潮新人賞(評論部門)最終候補など。句 集に『メキシコ料理店』(角川書店)、共著に『現代の俳人101』(金子兜太編・新書館)、『超新撰21』(邑書林)。サイト「ono-deluxe」
■今井 聖 いまい・せい
1950年生まれ。加藤楸邨に師事。「街」主宰。句集に「谷間の家具」「バーベルに月乗せて」など。脚本家として映画「エイジアンブルー」など。長編エッセイ『ライク・ア・ローリングス トーン』(岩波書店)、 『部活で俳句』(岩波ジュニア新書)など。「街」HP
■畠 働猫 はた・どうみょう
1975年生まれ。北海道札幌市在住。自由律俳句集団「鉄塊」を中心とした活動を経て、現在「自由律句のひろば」在籍。
■西村 麒麟 にしむら・きりん
1983年生れ、「古志」所属。 句集『鶉』(2013・私家版)。第4回芝不器男俳句新人賞大石悦子奨励賞、第5回田中裕明賞(ともに2014)を受賞。
■猫髭 ねこひげ
「きっこのハイヒール」所属。サイト「三畳の猫髭」
■小津夜景 おづ・やけい
1973年生まれ。無所属。
■上田信治 うえだ・しんじ
今号の特集は「曾根毅句集『花修』を読む」。「三木基史が勝手にプロデュース」というのは、このつぶやきのような背景があったからです。
https://mobile.twitter.com/elvin_miki/status/618364716407091200

この句集『花修』は、とても作者のことが気になる句集です。
句中に発話者、あるいは視点として「私」が書き込まれることは、ほとんどなく、むしろ禁欲的といっていいのですが。
一つには、この句集が執筆時期によって章分けされていて、さらにある日から、あの放射能による汚染が重要なモチーフとしてあらわれること。
もう一つには、これは「私」が登場しないことともつながっているのですが、句群のモチーフが、感覚、感情といった身体ベースのものではなく、抽象的でありながらどこまでも揺るぎない、ひょっとしたら「思想」とでも言うべき領域にあるということ。
その二つのことから、この句集は、ある人のこの十年の精神誌であるかのように読めてしまう。もちろん、具体的にああ思ったこう考えたが書かれているわけではありません。ただここには、この作者が俳句の「歯」でがちっと嚙んでほんとうに歯ごたえのあったものだけが、書かれている。
だから、その人が、俳句を通して嚙んだ世界の歯ごたえが、読み手の歯茎へ届こうとする。すばらしいシリアスさです。
立ち上がるときの悲しき巨人かな
永き日のイエスが通る坂の町
から、
悪霊と皿に残りし菊の花
玉葱や出棺のごと輝いて
を経て、さらに
薄明とセシウムを負い露草よ
山鳩として濡れている放射能
と同時に、
初夏の一人にひとつ生卵
十方に無私の鰯を供えけり
であり、そして、
馬の目が濡れて灯りの向こうから
闇に鳩鳴けば静かに火を焚かん
なのです。
(自分もぜひ感想を言いたい句集だったので、こっそりと書きました)
●
俳句作品は、馬場古戸暢さん(「自由律俳句を読む」100回おつかれさまでした!)と、竹岡一郎さんの30句。
今井聖さんの「なんだこりゃ」もあって(爽波と素十の軽重を問う!)、今号も読み応えありすぎです。
どうぞゆっくりとお楽しみ下さい。
●
それではまた、次の日曜日にお会いしましょう。
no.430/2015-7-19 profile
■馬場古戸暢 ばば・ことのぶ
1983年生まれ。自由律俳句(随句)結社「草原」同人。
■竹岡一郎 たけおか・いちろう 昭和38年8月生まれ。「鷹」月光集同人。句集『蜂の巣マシンガン』(平成23年、ふらんす堂)『ふるさとのはつこひ』(平成27年、ふらんす堂)
■三木基史 みき・もとし
1974年生まれ。兵庫県宝塚市在住。「樫」所属。森田智子に師事。現代俳句協会会員。第26回現代俳句新人賞。
■五島高資 ごとう・たかとし
昭和43年、長崎生まれ。
■森澤 程 もりさわ・てい
1950年、長野県生。現在、奈良県橿原市在住。「花曜」、「
■宮本佳世乃 みやもと・かよの
1974年生まれ。「炎環」「豆の木」「オルガン」所属。2010年合同句集『きざし』。2012年12月、句集『鳥飛ぶ仕組み』。
■瀬越悠矢 せごし・ゆうや
1988年兵庫県生まれ。関西俳句会「ふらここ」所属。
1963年、大阪生まれ。「豈」「一粒」同人。現代俳句協会会員。
■小野裕三 おの・ゆうぞう
1968 年、大分県生まれ。神奈川県在住。「海程」所属、「豆の木」同人。現代俳句協会評論賞、現代俳句協会新人賞佳作、新潮新人賞(評論部門)最終候補など。句 集に『メキシコ料理店』(角川書店)、共著に『現代の俳人101』(金子兜太編・新書館)、『超新撰21』(邑書林)。サイト「ono-deluxe」
■今井 聖 いまい・せい
1950年生まれ。加藤楸邨に師事。「街」主宰。句集に「谷間の家具」「バーベルに月乗せて」など。脚本家として映画「エイジアンブルー」など。長編エッセイ『ライク・ア・ローリングス トーン』(岩波書店)、 『部活で俳句』(岩波ジュニア新書)など。「街」HP
■畠 働猫 はた・どうみょう
1975年生まれ。北海道札幌市在住。自由律俳句集団「鉄塊」を中心とした活動を経て、現在「自由律句のひろば」在籍。
■西村 麒麟 にしむら・きりん
1983年生れ、「古志」所属。 句集『鶉』(2013・私家版)。第4回芝不器男俳句新人賞大石悦子奨励賞、第5回田中裕明賞(ともに2014)を受賞。
■猫髭 ねこひげ
「きっこのハイヒール」所属。サイト「三畳の猫髭」
■小津夜景 おづ・やけい
1973年生まれ。無所属。
■上田信治 うえだ・しんじ
1961年生れ。共著『超新撰21』(2010)『虚子に学ぶ俳句365日』(2011)共編『俳コレ』(2012)ほか。