自由律俳句を読む 86
安斉桜磈子〔2〕
馬場古戸暢
暗い一室があって春の日を戻らねばならぬ 同
安斉桜磈子〔2〕
馬場古戸暢
前回に引き続き、安斉桜磈子句を鑑賞する。
馬場古戸暢
家のあるじとして坐り夕づゝの見ゆるなり 安斉桜磈子
「夕づゝ」は、宵の明星のことを指すという。縁側に座って金星を見ている様は、なるほど、確かに家のあるじのようである。よくは知らないが。
暗い一室があって春の日を戻らねばならぬ 同
自身がどこにいるのか、いまいちわかりがたい句。室内にいて、春の日が射し込む廊下にいるのだろうか。そうであれば、小学生の時分を思い出す。学校の廊下の奥の暗い一室が、やけに怖かったのである。
草餅たべ空にいつまでも寺の屋根 同
境内でのんびりと草餅をたべているところだろう。空は青空、季節は春がよい。桜磈子が見た寺の屋根は、今でも空にそびえているのだろうか。
日暮の寒さがそばへきて糸くず拾うてゐる 同
室内の方が、日暮の寒さを感じやすいように思う。静かな日常のひとこまが、よく詠みこまれている。
氷柱さやぎ落つるわが死ぬ家ぞ 同
自身がこの家に根付いていることを実感した後に、はじめて詠むことができる句。北に生きる人らしい句とも言えるだろう。