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林田紀音夫全句集拾読268野口 裕
雨傘をたたむひとすじ蜘蛛の糸平成二年、未発表句。傘をたたんだ拍子に、傘に引っかかっていた蜘蛛の糸がきらりと光りつつ揺れたか。芥川龍之介作の童話をも脳裡に宿らせたか。瞬間を切り取る技の冴えを見せた句。
●鏡を抜けてさびしさ募る街へ出る平成二年、未発表句。卑近に解釈するなら、鏡の前で用紙を整えてからの外出だろう。鏡の中の虚像が街へ外出したと見立てるのは、面白すぎるか。さびしさ募る街は作者の心理の投影であり、あてのない外出なのだろう。これも老境の一風景である。
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