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【八田木枯の一句】抱擁の五月は風をつむぐ月 太田うさぎ

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【八田木枯の一句】
抱擁の五月は風をつむぐ月

太田うさぎ


抱擁の五月は風をつむぐ月  八田木枯(『鏡騒』)


五月が好きだ。

新緑を広げる木々に、きらきらと光を返す水に、軽装をさらりと渡ってゆく風に、自然と気持が若やぐのは幾つになっても変わらない。

だからだろうか、この句を読んでいるだけで幸せになる。幸せになれる句を持っている喜びに、幸せなんて簡単だなあと笑ってしまう。


でも、この句自体は私の頭ほど単純ではない。「風をつむぐ」。すんなり入ってくるものの、作る側としてはなかなか引っ張り出せない表現ではなかろうか。どこかで生まれた一筋の風が軽く縒れては新たな風を繰り出して、初夏の街や野山をどこまでも流れてゆく。そんな風が目に浮かぶ。見えないものを目に浮かべるというのもおかしいけれど。


とはいえ、「風をつむぐ」という表現にはそこばくの少女趣味を認めなくもない。そこをきっちり収めるのが冒頭に置かれた「抱擁の」だと思う。「抱擁や」と切っては調べとしてもうるわしくないし、劇的すぎる。「の」の柔らかさと曖昧さが句に膨らみと大らかさを齎しているのだろう。抱き合う恋人たちにとっての五月は、という意味だけでなく、「抱擁の五月」とワンフレーズに括れば五月そのものの包容力とも捉えられる。


抱擁に籠められた愛情と二人を包むやわらかな風とがお互いを尽きることなく祝福し合っている。そのように読み取れて仕方がないのは、若い俳句仲間が今月結婚するとの知らせが舞い込んできたからかもしれない。この場をお借りして、薫風の花嫁となる彼女にお祝いと共にこの句を贈ることをお許し願いたい。

なっちゃん、おめでとう!末永くお幸せに。






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